「KISS―葉月珪ver.-」



「俺、お前とキス、したい・・・。」
「え?・・・・・・・っ!!」
驚いて横を向いた途端、恋人は言葉を返す前に葉月の唇に塞がれていた。
目の前には綺麗な淡いグリーンの瞳と茶色がかった金髪が夜の月光にうっすらと光っていた。
どちらも宝石みたいに美しい輝きを放っているのに、恋人にはどこか野生の獣を連想させた。
「・・・・ぅん・・・。」
彼女はすぐに瞼を伏せ、葉月のキスを素直に受け入れる。
色素の薄い色の髪の毛をするりと撫でるだけで、彼女の肩がぴくっと小さく震えた。
吐息すら奪うキスを何度も繰り返す内に、呼吸をしたくて反射的に薄く開いた口の中へ葉月は舌を差し入れ彼女の口内をじっくりと舐め回し味わった。
熱い舌を絡ませお互い唾液を交換しながら、彼女の身体に自分の熱を与えるようなキスを繰り返す。
二人ともこれ以上熱が身体に灯ると引き返せないのはわかっていた。
だがお互いが求めている以上、止めることが出来なかった。
「・・・・ぅん・・・・。ぁ・・・・。ふぅ・・・。」
苦しくなった恋人が葉月の唇で塞がれた口から甘い吐息が漏れた。
日頃はあまり言葉を操ることが苦手な彼だが、こういう行為の時は饒舌になる。
『お前が欲しい・・・。』
大切な存在が出来たからこそ、葉月はその人に一身をささげてしまう。
恋人への深い愛情を、葉月は行動で全て表した。



デートで彼女を家まで送る途中、葉月はいきなり車を道路の端に寄せてを止めた。
彼女の家の前の一方通行に入る前の二車線の道路で、家まで残り1kmというところだ。
辺りはすでに真っ暗な闇になり、外灯が寂しげにポツポツと立っている。
閑静な住宅街なので、すでに人通りがなかった。
車のフロントガラスから美しい二十三夜の月が二人の目の前に昇っていた。

「どうしたの?」
「・・・・・・・いやだと思って・・・。」
「え?」
「お前と離れるのが嫌だと思っただけ・・・。」
葉月の言葉に、彼女の頬がさあっと紅を差したように赤く染まった。
子供が母親に甘えるように、弟が姉にねだるように呟く葉月に、恋人は困ったように笑って嗜めた。
「珪・・・ったら。明日学校で会えるでしょ。」
緑の瞳が僅かに伏せるのを見て、付き合ってから今まで押し殺していた自分の感情を葉月は素直に表に出すようになったと彼女は思った。
「・・・・・・・うん。」
納得した顔ではなかった。少し寂しそうに、彼女を見つめて小さく頷いただけだった。
「本当にどうしたの?今日はおかしいよ。」
いくらお互いの両親が公認していても、普段の彼ならあまり遅くならないようにと気を遣うのだが、今夜は違っていた。
引き止めようとしているのだ。
「もしかして・・・寂しい・・・?」
「・・・・・・・。」
沈黙は肯定だった。
彼が素直に感情を出すようになったからと言って、今まで一人でいた寂しさが解消されたわけではない。
幼い頃祖父を亡くしてから誰にも甘えなくなった葉月は大切な存在が出来てから、時折寂しさが詰まった心を恋人に見せるようになった。
良い傾向だと彼女は喜んだ。
感情表現を表に出すのが苦手だった葉月が、今では彼女の家族と談笑しながら毎晩ご飯を食べるようになり、それが嬉しいとはにかんで言う。
彼が焦がれても手に入れられなかった家族との時間を取り戻せたのではないかと思って、恋人は母親のように姉のように手放しで喜んだ。
少しずつ教会で出会った幼い頃の笑顔に戻っていく。
いつか彼の中にある寂しさ全てが消えるようにと願い、恋人はずっと傍にいようと心に決めた。


葉月は、大切な人に対する恋慕から生れた寂しさを恋人にあっさりと見透かされて珍しく慌てた。
実は明け透けになっていた感情を心の中に隠しきれていると思っていたから余計恥ずかしい。
自身でも顔が熱くなっていくのがわかった。
遂に居たたまれなくなって、両手が置かれたままのハンドルへと顔を突っ伏した。
月明かりでも彼女にははっきりと見えた。
葉月の顔から少し覗いた頬が淡い桃色に染まっていることを。
「・・・・・ふふふ。」
図星を指されて照れる彼の反応が可愛くて、つい笑ってしまった。
伏せていた葉月が反論しようと何か言いかけようと身体を起こした時、恋人はその美しい横顔に唇を寄せていた。
大粒のエメラルドが零れ落ちたように、彼の瞳が大きく見開かれ言葉に詰まる。
艶めく唇が離れると、熱くなった頬が少しだけ冷やされた気がした。
「・・・・・・・・・・・・・。」
黙ったまま葉月が名残惜しそうに、触れた肌に左手の人差し指を当てる。
触れた指先が少し濡れていた。
「・・・・・熱い。」
誰にも聞こえない程の声で呟いた。

冷たいと思ったのは一瞬で、種火を投げ入れられた自身の身体が火照っていくのがわかった。
それを見た恋人は、勘違いをして慌てて謝った。
「ごめん!もしかしてリップグロス付いちゃった?」
ハンカチを取り出して拭こうとする彼女の手を掴まえると、葉月は力を入れて引っ張り身体ごと自分に引き寄せた。
瞬く間に葉月は頭まで沸騰した。




FIN


<あとがき>
はい!今日はキスの日ですってよー!
言っておくが魚類の話ではない!(笑)
二時間もかからずに仕上げた超短文ですが、どんどん葉月が感情露にしていくとこが
ご飯何杯でもいけるので、もっと書きたいというか、公式さん書いてください、お願いします。
<2014/5/23>


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